日本版LLPとLLCについて
- 時代的背景
法人の運営については昨今色々と難しくなり、コンプライアンス(法令順守)の徹底とかコーポレートガバナンス(組織や内部規制の作り方などの会社組織を統治する=企業統制)の重要性が叫ばれています。
また、大きな会社では会社所有者(出資者)と経営者とは異なることがほとんどで、そのために、商法などでコーポレートガバナンスの点からたくさんの組織(規定)が定められています。
一方、気心の知れた仲間内でビジネスを立ち上げる場合、法人の所有者と経営者が一致していて、一般会社のような複雑な内部組織は必要ないといえます。
現代数は多くありませんが、従来からの合名会社や合資会社がこのようなスモールカンパニーの組織にはピッタリで社員総会が唯一の意思決定組織として商法が規定しているのみで、規制が少なく内部の組織を自由に作れマネジメントが出来るなどメリットが多いのですが、問題はこれらの会社の出資者は無限責任という重い責任があり、株式・有限会社のような有限責任の形態の必要性が高まっていました。
- LLP・LLCの特徴
会社形態 特 徴 株式会社
有限会社物的組織 お金重視
複雑な組織・ルール
↓
有限責任合名会社
合資会社
民法の組合人的組織 人重視
簡単な組織・ルール
↓
無限責任LLP
LLC人的組織 人重視
簡単な組織・ルール
↓
有限責任
LLP(Limited Liability Partnership)「有限責任事業組合」というのが正式名称です。(有限責任事業組合契約に関する法律が根拠法で平成17年8月1日より施行 経済産業省主導)
法人格は無い
パススルー課税の適用あり(後述)
LLC(Limited Liability Company)「合同会社」というのが正式名称です。(新会社法が根拠法ですが施行日は未定 法務省主導)
法人格あり
パススルー課税の適用なし。
- 私LLP・LLCの意思決定や業務執行
意思決定 重要事項については社員・組合員全員の同意が必要
LLPでは一定の規制あり
① 重要な財産の処分及び譲り受け
② 多額の借財については全員一致または組合員の3分の2以上の同意業務執行 社員・組合員全員に業務執行権限あり
複数のときは過半数による決定(LLC)
日常業務については単独執行
LLPでは一定の規制あり
原則全員で業務執行をする
一定の規制を除き上記のルールを定款・組合契約で自由に変更できます。
特にLLCでは特定の人に業務執行権を与えることも可能です。
また、組織設計も目的に応じて設計することが可能(監査役や各種委員会の設置など)
出資割合と異なる損益配分を定款・組合契約で定めモチベーションを高められる。
- 有限責任に対する規制
取引の安全の確保 名称表示 合同会社 有限責任事業組合 を名乗る必要 法人格 法人格のないLLPが円滑に取引するための整備 登記制度の充実 組織内容が誰でもわかるように 債権者の保護 金銭その他の財産の出資のみ 労働出資・信用出資の禁止 出資金の全額払い込み主義 全額払い込んで正式社員等 財務諸表の作成義務 貸借対照表・損益計算書・その他 会社債権者による財務諸表の閲覧・謄写が出来る 余剰金・財産配分、払戻規制 勝手に配分・払戻ができない - パススルー課税(LLP)
LLPの特徴ですがLLPの課税関係は法人税を払わないことにあります。
変わりにその組合員が配当額を自分の所得と通産して課税所得を算定し税金を納めることになるため、二重課税を回避できます。
また、組合員の所得税率によっても変わりますが、法人税控除後の配当を受けるよりこの場合は手取りが多くなるというメリットもあり、さらにLLPに損失が出た場合は出資者のその他の所得と相殺できます。
- LLP・LLCの活用例(経済産業省が提唱)
- 大企業同士が連携すて行う共同事業
- 中小企業同士の連携
- ベンチャー企業や中小・中堅企業と大企業の連携
- 異業種の企業同士の共同事業
- 産学の連携
- 専門人材が行う共同事業(IT、ソフトウエア、経営コンサル、士業)
- 企業家が集まり共同して行う創業
- 農業
- まち作り
- LLP・LLCの設立手続き
設立手続きの主要なもの
設立手続き 必要事項 重要事項を決める 社員・組合員、事業内容・目的、商号、本店の場所、営業年度、出資金額などを決定する。 定款・組合契約作成 LLCでは定款、LLPは組合契約 出資する 出資する金銭またはその財産全て出資して、残高証明書を入手する。 登記する 目的、商号、本店所在地、資本金の額、業務執行社員の氏名などを登記する。 設立後に必要関係書類を届ける 税務関係書類、社会保険関係書類などの届出をする。
【社員・組合員】
LLCは1名以上、LLPは組合契約だから2名以上必要
【事業内容・目的、商号】
「合同会社」「有限責任事業組合」は必ずつける必要があります。
【出資の額】
LLC・LLPとも最低資本金の規制はありませんので、LLCは1円以上、LLPでは2円以上が必要となりますが、有限責任ということで、他の人的会社のような、労務や信用の出資は認められず、かつ全額出資時に払込む必要があります。
定款・組合契約書の絶対的記載事項
LLCの定款 LLPの組合契約書 目的 有限責任事業組合の事業 商号 組合の名称 本店の所在地 組合の事務所の所在地 社員の氏名または名称及び住所 組合員の氏名または名称及び住所 社員が有限責任である旨 組合契約の効力が発生する年月日 社員の出資の目的及びその価額または評価の基準 組合の存続期間 組合員の出資目的及びその価額 組合の事業年度
定款・組合契約書の相対的記載事項
LLCの定款 LLPの組合契約 会社の内部関係に関する事項であって、組合に関する民法の規定を適用しない旨 組合契約書における事務所所在地・事業年度の記載の変更には組合員の同意を要しない旨の定め 会社の存続期間の定め 組合の業務執行の決定で総組合員の同意を要しない旨の定め 業務執行社員の定め 組合員の脱退の定め 会社を代表する者の定め 組合員の除名に他の組合員一致を要しない旨の定め 損益配分の定め 財産配分の定め 社員の退社の定め 組合の解散原因となる事由の定め 会社の解散原因となる事由の定め 死亡・合併時の承継人が社員となる定め 解散の場合における会社財産の処分方法
上記の事項をよく検討し作成することになります。
社員・組合員全員が定款・組合契約書に署名するか記名押印すると完成です。
公証人の認証は合名・合資会社と同様必要ありません。
出資後、登記をする。
前出の通り金銭またはその他の財産を全額出資して、金銭の場合は金融機関の残高証明 その他の財産は財産価額に関わる評価の証明を取得して、本店所在地で設立登記をしま す。 なお登録免許税は6万円です。
登記事項
LLC LLP 目的 組合の事業 商号 組合の名称 本店所在地 組合の事務所の所在地 資本金の額 組合員の氏名または名称及び住所 合同会社の業務を執行する社員の氏名または名称 組合契約の効力が発生する年月日 組合の存続期間
LLC・LLPに途中で参加したりやめたり出来る。
LLC・LLPに新たに加入の場合 社員・組合員全員の一致が必要
出資金の全額の払込みが必要定款・組合契約書 社員・組合員の氏名・住所・出資に関わる記載の追加等を記載する 登記の変更 LLC・・・資本金の額
LLP・・・組合員の氏名・住所
LLC・LLPはやむ終えない理由があればいつでも辞めれます。 辞める場合のルールを定款に記載できます。 また、出資金の払戻が一定の制限のもとで可能です。
財務諸表の作成
LLC
貸借対照表、損益計算書、社員持分変動計算書
LLP
貸借対照表、損益計算書、付属明細書
- NPO法人とLLC・LLPの違い
NPO法人 LLC・LLP 活動内容 17の特定非営利活動 制限はありません 社員の数 最低10人 最低1人(LLC)ないし2人以上 組織 社員総会、理事、監事 社員総会、組合員総会 設立時の認証 所轄庁の認証(最低4ヶ月掛る) 無い 利益の配分 営利活動が禁止のため利益配分は出来ない 自由に決定できる 税務 公益法人の扱いであるが、収益事業の課税率は普通法人と同じ LLC・・・法人課税
LLP・・・パススルー課税
1保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2社会教育の推進を図る活動
3まちづくりの推進を図る活動
4学術、文化、芸術、又はスポーツの振興を図る活動
5環境の保全を図る活動
6災害救援活動
7地域安全活動
8人権の擁護又は平和の推進を図る活動
9国際社会の協力の活動
10男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
11子供の健全育成を図る活動
12情報化社会の発展を図る活動
13科学技術の振興を図る活動
14経済活動の活性化を図る活動
15職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
16消費者の保護を図る活動
17上記の活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡・助言又は援助の活動
NPO法人=ボランティアというイメージが現在出来上がっていますが、
設立にはクリアしなければいけないことが多く大変なエネルギーを消耗
し設立を断念する団体も結構あることから、小規模な市民活動の受け皿
などへの活用視野に入れるべきと考えます。